☆◆○業界専門用語「条変」(条件変更の略)というもの・その2 ●第13話

と、上の会話で出てきた、■条変■(じょうへん)とは・・・。
条変とは、条件変更と言う言葉を略して、「条変」と不動産屋
は言っています。
さて、■条変■とはどんなことするのでしょうか?
そーこーしている内に、お客さんの森田さんが来店しました。
-------------------------------------------------------------
森田(客) 「こんにちわ、お邪魔します。」
中田主任  「今回は融資の審査がOKになって、本当に
       よかったですね」
       「私、かなり苦労しましたよぉ〜!」
       (苦労してへんくせに)
森田(客) 「本当にありがとうございます」
      「ほんと、あんな良い家が買えるなんて夢のようです。」
中田主任  「さて、今日は金銭消費貸借契約(金消)を銀行にしに
      行くわけですが・・」
      「その前にちょっとだけお話があります。こちらへどうぞ」

と、中田主任は、当店の応接室(事務所の片隅に設けられた、
パーティションで四角く囲まれた応接室で、なんとも独特の雰囲気
を持った感じで、通称、押し込み部屋と言われて いました。)
にお客さんを促し、そこで■条変■をするようです。
応接室に入るとき、中田主任は、僕をチラッとみて、
不敵な笑みを浮かべていました。
よーするに半笑いの顔です。僕は、興味深々で■条変■ってどんな
ものだろうと、全神経を 集中して聞き耳をたてていました。

中田主任  「森田さん、私、住宅ローンの年数、何年って言いました?」
森田(客) 「はぁ?確か・・48年って言ってましたけど・・・」
中田主任  「そうですよね。でも、今回は35年になりましたので。」

と、平然と当たり前のように答えています。
当然のように、客は怒りの炎がメラメラと燃え上がるのが、
聞き耳立てている僕の方まで 充分に伝わってきました。

森田(客)  「??!!・・さ・・・35年ん!!!」
       「話が違うじゃありませんか!!!48年払いだから
       買ったのですよ!!」
       「こんな馬鹿な話はありません!!!」
       「解約・・・しますっ!!」
中田主任  「解約ですか?、別にいいですけど・・
      もうローンのOKが出てますので手付金は戻ってきませんよ。」
       「更に、契約書にも書いてあると思いますが、このケース
        は損害賠償も発生してきますので、契約金額の20%、
        すなわち600万円を支払わなけれ ばなりませんよ。」

と、中田主任は淡々としゃべっています。
聞いている僕はこれからどうなるのだろう?とド キドキしていますが、
一方の中田主任は、冷静に落ち着いて、慌ててる風でもありません。

森田(客)  「!!なんで、そんなお金払わんといけないんですかー!」
       「これは、詐欺!!・・詐欺!!ですよー!!」
と、客は怒り心頭です。まあ、当然の結果だとは思うんですが・・・・・、
そのとき突然、 激しく机をたたく音がバーーーン!としました。
どうやら中田主任が叩いたようです。

中田主任  「詐欺とはなんですか!!!詐欺とは!!!」
       「言っていいことと、悪いことがありますよ!!!!」

と、店中響き渡る大きな声で、中田主任が吠えています。
普段はお人よしに見える中田主任 が大声をだして怒ったので、
客の森田さんは、びっくりしてボーゼンとしているようです。
すると、中田主任は静かにこう言いました・・・。
中田主任  「まあ、森田さん、座ってください・・・。」
      「私は、わざわざけんかするために、話ししてるんじゃ
       ないんですよ。
       最後 まで話聞いてから怒ってくださいよ。さっきは
       大声出してすみませんでした・・・。」
森田(客) 「え・・ええ・・私こそ興奮してすみません・・・・・」
      「でも・・・・35年」
中田主任  「ええ!ええ、わかってますって、まぁ聞いてください。」

そうです。中田主任はわざと、最初にお客さんを怒らせたのです。
普通なら言いにくいこと は誰でも最後の方に持っていくんですが、
この場合は、最初に厳しい結論を持っていき、相 手を怒らせ、
そしてそれを静め話を有利に持っていくのです。
このお客さんの現在の心理状 況は、中田主任がまさかの大声出したのに
びっくりしたのと、興奮したことに対する体裁の 悪さ、また、
納得材料があるのではと言う期待感が出てきている状況です。

中田主任   「森田さん、今回3400万円借りて、48年ローンで
       毎月13万円ボーナス時 25万円ですよね。」
       「それを48年間支払って、総額いくらになるか
       考えたことありますぅ?」
森田(客) 「いえ・・毎月の支払いが気になって考えたこと
       ありません・・。」
中田主任  「毎月13万円、ボーナス25万円で年間の返済額は
       約206万円です。」
      「それを48年間払い続けると・・・・なんと、
       9800万円!支払ったこと になるのですよ」
             (パチパチと電卓を叩きながら・・・)
森田(客) 「き!・・9800・・万円?!・・・・・。もう・・
       一億ですやん!!」 (裏声になってる・笑)
中田主任  「まあ、まあ(笑)、それを35年にすると、毎月
       2万円支払いが上がります が、それでも35年
        支払い続けて、総額8000万円!です。
        差額はいくら になります?
        そうです1800万円です」

すると、中田主任が「お〜い!富山君!金庫に入ってる1500万円持って
きて〜!」と声が掛かりました。
私は、経理の方に金庫を開けてもらい、中に入っていた1500万円の現金
を手にしました。
1000万円束一個と100万円の束5つ・・・こんな大金を持つのは初め
てで、それはズシッと重く感じました。
そして、重たそうに、応接室にそれを届けました。

私     「現金、ここに置いていいですか?」
中田主任 「ありがとう。うん、テーブルの上に置いてて」
       「あ、それと、富山君、また、持っていってもらわんと
        いかんから、隣に座っといて」

と、言われ、ラッキーにも、これからのやり取りを目の前で見れることになりました。
客の森田さんは、1500万円の現金をみて、驚いているようです。
そーこーしているうち、会話がはじまりました。

中田主任 「森田さん、ここに1500万円あります。」
     「どーです?すごい大金でしょ。それでも、
      1800万円にはまだ300万円足りません」

と、中田主任はその現金を持ち上げ、応接室のごみ箱へ・・・
ポィっと無造作に捨てました!!。
森田さんはもちろん、この私もその光景をみて、ボーゼンとしました。
そして、中田主任は、静かに、静かに口をひらきました。

中田主任 「そうです・・・森田さん。これと、同じことなんですよ。・・」
森田(客) 「・・・・・・・なるほど・・・・。でも、それじゃあ、
       最初から35年で話してくれたらよかったんじゃないかと
       思うんですけど?」
中田主任 「あはは。でも、あの時、35年で話したら、森田さん買わな
      かったでしょう?笑」
     「それに、ローンを申し込む時に、森田さんの実収入を見て、
      支払額があと2万円増えてもいけると判断したんです。」
     「森田さん・・ご主人の飲み代1万減らしましょう。
      奥さんの化粧代1万減らしましょう。そーすると、
      1800万円ごみ箱に捨てなくて済むんですから。」
     「今回は、本当に勝手なことしてすみませんでした」

と、中田主任は、深深と頭を下げています。
それを見ている森田さんは、気持ちもほぐれたのか、笑顔で中田主任を
制しています。

森田(客) 「いやいや、中田さん、そんなに謝らないでください。」
       「私こそ、なにも知らずに、興奮してしまって、
       ほんと恥ずかしい。」

と、そのとき、頭を下げている中田主任が勝ち誇ったように、
ニャッと笑ったのを私は見逃さなかった。

あとは、話も和み、お互い笑いながら、世間話をしています。
私は、こんな見え透いた芝居がまかり通るのかと、驚きを隠せませんでした。
このあと、無事、金消も終わり、森田さんは、35年ローンと言う重い荷物を
背負うことになりました。


次へ