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● 初案内 (中間省略編) その2 ●第28話


私と田山さんと早速車に乗り込み、お客さんの自宅にお迎えに出発しました。
いつもヘルプで運転手をしている私にとっては、田山さんという大先輩が
ヘルプで運転してくれてるのには、ちょっと戸惑いも隠せず、なんとなく
落ちつかない感じでした。

田山   「まぁ、そんなに緊張せず、えっちな事でも考えとけや」
     「今回は練習みたいなもんやから、契約は意識せんと
      かるーい気持ちで接客してええからな」

私    「はい。。。でも、やるからには契約を目的として
      接客するのが、当然だと思っています。。」

田山   「ほぉ〜!言うのぉ〜!ま、お手並み拝見や!」

そしてあっと言う間に、お客様の住んでる自宅へと到着しました。
お客様夫婦は既に自宅の前で待機していました。
電話の話し方でも想像ができましたが、大人しそうで、気が弱そうな
お客様です。
私は車をさっと降り、笑顔を見せず、ちょっと愛想無い感じで
「よいこ不動産の富山です。」と名詞を差し出しました。
これも部長の「富ちゃん用営業方法」です。

お客   「は。。はぃ・・よろしくお願いします」

と、私の態度に警戒をしているようです。
そして、車の後ろのドアを開け、お客様を乗せました。

私    「では、田山さん物件までよろしくです。」

田山   「はい!でわ出発しまーす!」

出発しまーすって・・バスやないねんからと噴出しそうに
なりましたが、そこは冷静に部長の教えのとおりに。。むすっと。

案内物件(森脇宅)までは車で約15分ほどです。
私はあらかじめ車のルームミラーを後部座席が見える位置にセット
してたので、そのルームミラーを見ながら、お客様の様子を伺って
いました。
もちろん、私も無言でお客様に話かける訳でもなく、車内の雰囲気は
とても重〜たくなっていました。
ときどき、耐えられなくなった田山さんが、話かけろ!と言わんばかりに
私の膝を突いてましたが、そんなことは無視して無言を貫き通してました。
そして、後部座席のお客様夫婦も神妙な表情で静まりかえっています。
でも、ときどき窓の外を指差し、小声で夫婦でなにやら会話しています。
そして、長〜く感じられた15分間でが、森脇宅に到着しました。

森脇さんは既に表で待っており、めちゃめちゃニコニコ笑顔です^^;
そして、お客様を車から降ろして、軽く森脇さんを「売主です」と
紹介しました。
お客様のお名前は『吉田』さん(仮名)といいます。

私   「どうです?なかなか良い家でしょう?」

と物件の外観を指し、初めて笑顔で話し掛けました。
すると、私の笑顔を見た吉田さん夫妻はホッとした表情になり
テレた笑顔で「そうですね・・」と言ってくれました。
(ふむふむ。ここまでは計算通りだ)
ちなみに私のこの笑顔は、のちに「必殺!富ちゃんスマイル」と言われる
ようになります。ふふ

そして更に一言付け加えました。

私   「吉田様、一応この物件の内覧は20分以内でお願いしますね。」
    「と言うのも、次のお客様の案内が控えてるんです。」

と言うと、今度は真剣な表情に変わった吉田さんでした。
この次の案内が控えてるってのは、まったくの嘘で、さりげなく煽る
営業手法なのです。

そして、物件の中に入り、玄関→部屋→風呂→台所へと、簡単に説明しながら
案内を進めていきます。
私は、簡単な物件説明をしながら、吉田さん夫婦の表情、特に目線を観察します。

私   「このキッチン綺麗でしょ?3年前に入れ替えたばかりで、売主の
     森脇さんも丁寧に使っておられたので、そのまま支障なく使えますよ」

って言うより、森脇さんは一人身なので、使用していないのでわ?って感じでした。
すると、奥様の方がキッチンのドアの開閉や、レンジフードのスイッチを入れたりと
きりっとした眼光で、キッチンをチェックし、その後、キッチン周りを伺っています。
どうやら、冷蔵庫置き場や、食器棚置き場を確認しているようです。
これは、明らかに「決め行動」です。
通常、キッチン等をチェックすることは、普通の行動ですが、それに伴う眼光、
想像での家具の配置目線があれば、これは明らかに「決め行動」なのです。
これを見逃すと、後々のクロージング(くどき)に響いてくるのです。

(これで、奥様はほぼ決まりだな。)

そしてこんどは2階に連れて行きます。

私   「ご主人、この部屋いいでしょう?なにが良いかというと、部屋自体は
     4畳半で広いとは言えないんですが、窓が西側と南側にあり、とても
     明るいですね。おまけに風通しがいい。子供部屋としては最適と
     思いませんか?」

吉田  「なるほど・・・」

と言いながら、想像での配置目線行動を始めました。
どうやら、子供用ベッドや、勉強机の配置でも想像してるんでしょう。

そしてふとご主人は振り返り・・

吉田  「でも、うちには子供はいないですよ?」

私   「はい。でも奥さん妊娠しておられるでしょ?」

吉田  「ななな・・なんで解ったんですか?まだ5ヶ月でお腹もそんなに出て
     ないのに・・」

私   「ははは、なんとなく歩き方で解ったんですよ。車に乗るとき、さっき
     階段を上がるときとかでね^^」

吉田  「そ・・・それで車の運転もすごく丁寧だったんですね・・・」

その会話を聞いてた田山さんは、私を見ながら、びっくりしたような表情で
口をあんぐりと空けていました。


つづく。


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